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    「どうぞよろしくお願ひします」

    「ウシ!ウシ!」

    「あ、神原の喜作さんだ」

    房一は笑つていた。

    「さうです、小倉組の方ですな」

    房一は暑さのために鼻の頭に汗粒を浮かべて、気のない調子で相槌を打つた。その様子でも判るとほり、彼はさつきからまるで別のことで気をとられていた。

    房一は鬼倉に向つて叮重ていちように云つた。

    云ひながら、ぽんと軽く下腹をたゝいてみせた。そして、微笑した、悪戯いたづらつ子のやうな目つきで、ぢつと房一の顔をのぞきこんだ。それは驚くほど巧みな打明けだつた。

    房一はふりかへつた。

    「やあ、しばらくで」

    「梨地から水神淵へ降りる路ができたからね、そこへ出れば、帰りはずつと楽だ」

    鍵屋へ招かれた時から房一の頭を占めていた考へは、その席で恐らく河原町の人達が彼をどんな風に見ているかがはつきり判るだらうといふことだつた。かういふ集りでは皆が皆自分の据ゑられる席の上下を可笑しい位に気にする習慣を房一はよく知り抜いていた。

    そこへは、案内も乞はずに、小谷吾郎が気がるに裏口から入つて来た。

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